大学院進学を希望する方へ
口腔外科学講座では卒後研修が修了し、入局を希望する方には大学院への進学を積極的に勧めています。優れた口腔外科医になるために、そして将来のキャリアを形成していく上でも基礎研究の経験は非常に重要であると考えます。
大学院の1年目は口腔外科の基本を着実に身に着けて頂くために臨床業務に従事しますが、2年目以降は研究に専念できる環境が整っています。
大学院入進学希望者は本人の希望や指導教員との話し合いによって、研究内容を決めることが出来ます。当講座では多様な研究を行っており、さまざまな興味に対応できるはずです。
昭和大学大学院歯学研究科の出願期間、試験日等は大学ホームページでご確認ください。
研究体制
当講座は生命科学の一分野としての口腔外科学の深い理解と実践の為に、科学的見地に基づいた研究活動を行なっています。
講座内の顎顔面外科、口腔腫瘍外科といった部門ごとの研究活動はもとより、部門間でも横断的に共同研究活動を行なっています。研究体制は代田、嶋根両教授を責任者として准教授以下の各教員が重層的な研究指導を行なえる体制となっています。
- 研究責任者:代田達夫
- 研究責任者:嶋根俊和
大学院生活について
高松 弘貴
研究テーマ:マウス唾液腺老化と成体幹細胞との関わり
私は大学院時代の研究を本学基礎講座の口腔病態診断科学講座口腔病理学部門で行いました。メインテーマはマウス唾液腺老化と成体幹細胞との関わりです。現在、老化の原因因子として組織固有に存在し細胞供給源となっている成体幹細胞の老化が多く報告されています。成体幹細胞老化が生じることが報告されている具体的な臓器としては、骨格筋組織や神経組織における成体幹細胞数の減少や機能低下があります。私は、マウス唾液腺成体幹細胞として報告のあるCD133陽性細胞を用いて唾液腺成体幹細胞老化の可能性を検証しました。その結果、若齢(6w)マウスと比べて老齢(80w)マウスではCD133陽性細胞数の減少とその幹細胞活性の低下を認める結果となりました。加えて、RNAシークエンスを用いた網羅的遺伝子解析から老化に伴い遺伝子発現変化を伴うCD133陽性細胞の機能低下が生じていることが発見されました。
これらの研究を通してマウス唾液腺で幹細胞老化が生じている可能性が示されたことに加えて、一つの研究テーマに没頭することで基礎研究分野の知識にとどまらず、口腔外科診療に必要な思考力や、所見を吟味する能力を得ることに繋がりました。私にとって非常に有意義な大学院生活であったことは間違いありません。是非、多くの先生方の入局をお待ちしております。
筑田 洵一郎
研究テーマ:抗がん剤に耐性をもつ口腔がん細胞
大学院時代は国立がん研究センター研究所(細胞情報学分野)にて、抗がん剤に耐性をもつ口腔がん細胞の研究を行いました。進行・再発口腔がんに対する治療は未だに困難な状況ですが、近年、抗がん剤に耐性をもつがん幹細胞の存在が注目されています。そこで私は、がん幹細胞において多分化能や自己複製といった重要な形質を維持・制御するmiRNAの存在に着目しました。CD44sという遺伝子を導入して口腔がん細胞株(SAS細胞)をがん幹細胞化しmiRNAの発現量を網羅的に解析したところ、幹細胞化した口腔がん細胞では、通常の口腔がん細胞とは異なったmiRNAの発現パターンを示すことが明らかとなりました(図1)。さらに研究を進め、miR-629-3pというmiRNAが12種類の遺伝子発現を抑制し、がん細胞のアポトーシスの抑制と細胞遊走の促進を制御することを確認しました。さらに、がん細胞を移植した免疫不全マウスでもmiR-629-3pはシスプラチン抵抗性に関与することが明らかになりました(図2)。これらの研究結果は、がん幹細胞が抗がん剤への耐性を獲得する機序として国際学会誌に報告しました(Chikuda J et al. Cancers, 2020)。
多くの先生からのご指導を頂き、研究者としてだけでなく人間的にも成長できた貴重な4年間でした。今後もこれらの経験を活かして、科学的根拠に基づいた診断や治療を実践していきたいと思っています。